2020年4月19日、韓国の感染者数の10661人に対して、日本国内の感染者数は4/19日曜日19時の時点のNHK発表で10686人(クルーズ船をのぞく)となり、とうとう日本の累積感染者数がお隣の韓国を抜いた。もちろん、母集団である人口が異なるので、単純に感染者数のみでは比較できないんだけど、韓国の新型コロナウイルスの現状について、私たちはどのように感じているのだろうか。というのも、日本のニュースでは報道されていないけれど、韓国全国の新規感染者数はこの1週間、1日あたり8〜27人程度と落ち着きつつある。韓国の最近の新規感染者数が安定しつつあるということをどれだけの日本人が認識しているのだろうか。
前回、「3月上旬新型コロナウイルス感染拡大初期のイタリアと1ヶ月遅れの4月上旬の日本」という記事を書いたときに、いかに3月の日本は新型コロナウイルス感染症に対して日本とは関係ない遠いところで起きている「他人事」だったということに気づいた気がする。イタリアの場合は、3月上旬に「イタリアは危険」というレッテルを貼ってしまった後も、感染者数は4月に入ると10万人を超えてくるので「先入観」がそのまま定着し、「イタリアは危険」という情報の更新を必要としなかった。
それでは韓国はどうなんだろう。韓国での大規模感染拡大の原因は2020年2月、大邱市にある「新天地教会」の大規模集団感染が発覚したことを発端としている。タイミング的には2/13に文在寅大統領が「国内での防疫管理はある程度安定的な段階に入ったようで、コロナ19は間もなく終息となるでしょう」“국내에서의 방역 관리는 어느 정도 안정적인 단계로 들어선 것 같습니다. 코로나19는 머지않아 종식될 것입니다”と発言した直後であったため、日本のみならず韓国国内でも批判された。この2月下旬時点での日本の感染者数は100人も満たず、この韓国での集団感染は、多くの日本人にとっては、イタリアの感染拡大時に「イタリアは危険」と感じたのと同様に「韓国は危険」と感じただろう。韓国の感染拡大の特徴としては、イタリアと同様に、大邱市、慶尚北道にスポット的に大規模な感染拡大が発生したこと。しかし、その後の経過において韓国はイタリアとは異なる道を歩むことになる。
イタリアと同様に、外務省「海外安全ホームページ」の感染症危険情報を追ってみることにする。
(1)2/22大邱広域市および慶尚北道に感染急増のスポット情報。
(2)2/25大邱広域市及び慶尚北道清道郡に感染症危険情報レベル2:渡航延期勧告を発出。
(3)2/28大邱広域市及び慶尚北道清道郡以外の韓国全土にレベル1を発出。
(4)3/1大邱広域市及び慶尚北道清道郡をレベル3:渡航中止勧告に引き上げ。
(5)3/2慶尚北道の慶山(キョンサン)市,永川(ヨンチョン)市,漆谷(チルゴク)郡,義城(ウィソン)郡,星州(ソンジュ)郡及び軍威(グンウィ)郡をレベル3に引き上げ。上記以外の慶尚北道についてレベル2に引き上げ。
(6)3/4慶尚北道の安東(アンドン)市をレベル3に引き上げ。
(7)3/6すでにレベル3が出ている地域を除く韓国全土にレベル2を発令。
(8)3/7慶尚北道奉化(ポンファ)郡をレベル3に引き上げ。
3/6以降は韓国全土にレベル2の渡航延期勧告が発令されており、不要不急の渡航はできなくなっている。また、3/9のAM0時より中国と韓国からの日本への帰国者に対しては2週間の自宅待機要請が出される。それとともに日本は、韓国に対する入国制限措置を発表する。対抗して、韓国は3/9より日本国民に対するビザ免除の停止を発表しており、事実上、3/9からは日韓の行き来ができない状況となる。
海外安全ホームページの経過を確認していくと、韓国においても、最初に一部地域で感染拡大が発生したイタリアと同様の経過であったことがわかる。イタリアが北部3州を中心に感染拡大が起きていたのと同様に、韓国では大邱広域市および慶尚北道の一部地域を中心に感染拡大が起きていた。しかし、イタリアと同様に、日本人にとっては大邱だろうが、釜山だろうが、ソウルだろうが、韓国は韓国なので「韓国全土が危険」という認識だったと思われる。さらに韓国については、イタリアよりも距離が近いことと、日本には韓国と言うだけで根拠もなくケチをつけたい人が一定数存在するので、イタリア以上に「韓国(全土)は危険」と差別的に警戒されたかもしれない。
イタリアと同様に、「韓国は危険」と認識し始めたころの韓国国内の感染者数を客観的に見てみることにする。データのソースは、探すのが面倒なので前回と同様にWikipediaとする。なお、ソースによって人数が若干異なるかもしれないけど、おそらく大差はない。
2/20:104(+53)
2/21:204(+100)
2/22:433(+229)
2/23:602(+169)
2/24:833(+231)
2/25:977(+144)
2/26:1261(+284)
2/27:1766(+505)
2/28:2337(+571)
2/29:3150(+813)
3/1:4212(+1062)
3/2:4812(+600)
3/3:5328(+516)
3/4:5766(+438)
3/5:6284(+518)
3/6:6767(+483)
3/7:7134(+367)
3/8:7382(+248)
3/9:7513(+131)
3/10:7755(+242)
ちょうどイタリアの感染拡大期と時期が重なるんだけど、3月上旬の日本の感染者数は400名程度であり、3/1に1日1,062人が判明したという情報は、当時の日本にとってはショッキングだった。3月上旬当時の日本では4桁の感染者数に脅威を抱いていたと思われるのに、1日で1000人以上の感染者数は「韓国は危険」というレッテルを決定的にした。感染者が急増した要因は、韓国では2015年のMERS(中東呼吸器症候群)の流行の教訓から、徹底したPCR検査を行ったためだという話もあるけれど、私は感染症の専門家ではないし、知ったかぶりをするのは嫌いなので、PCR検査を積極的に行うのがよいとか、抑制した方がよいなどという話については言及しない。
そのPCR検査については、韓国ではPCR検査が行えるテントなどの「選別診療所」“선별진료소”あるいは「ドライブスルー選別診療所」“드라이브 스루 선별진료소”と呼ばれる仕組みをつくった。また、非呼吸器疾患と分離し、呼吸器疾患専用外来区域を設けた「国民安心病院」“국민안심병원”を全国に312病院指定した。
また、韓国では新型コロナウイルス対策のひとつとして、3/2から「生活治療センター」“생활치료센터”を設置し、軽症者については地方自治体や大企業の研修所、保養所などを活用した「生活治療センター」に入所させた。これは、4月に入ってから日本でもホテルを1棟借り上げて軽度もしくは無症状の感染者を入所させているのと同様の措置であるが、韓国ではすでに3/2から始まっていた。
さらに、マスク不足の対策も行っている。韓国の食品医薬安全処は3/9、マスクの購入について曜日制を導入する。出生年の末尾の数字に基づいて、1週間に1度のみ、マスク販売所である薬局と農協ハナロマート、郵便局で購入できるようにした。
月:1,6
火:2,7
水:3,8
木:4,9
金:5,0
土・日:平日にマスクを購入していない全ての者。
例)1984年生まれ→末尾が4であるので,木曜日に購入可能
購入できる枚数は1週間で2枚と少ないが、すべての国民が毎週マスクを購入できるようにした。マスク販売所を制限することで、購入はコンピュータ管理されており同じ週に重複して購入できないようになっている。
そして、韓国の新型コロナウイルス感染症の1日あたりの感染者数は3/10の242名からは増加することなく減少傾向となる。韓国では、イタリアのように感染者が莫大に増加することはなく、大邱広域市および慶尚北道を中心とした一部地域での流行で制圧しつつあると言えよう。その根拠として、この1週間の韓国国内の感染者数を客観的に見てみることにする。データのソースは安直に再びWikipediaである。
4/13:10537(+25)
4/14:10564(+27)
4/15:10591(+27)
4/16:10613(+22)
4/17:10635(+22)
4/18:10653(+18)
4/19:10661(+8)
2020年4月中旬、この1週間の韓国の感染者数の増加ペースは、日本の増加ペースとはまったく異なっている。4月中旬の韓国全体で新規の感染者数はゼロではないものの、この1週間、1日あたり8〜27人の人数で推移している。今後、増加する可能性はあるものの、4/19には一桁の8人となっている。
(引用)聯合ニュース
https://jp.yna.co.kr/
10日ほど前の4/10の情報だけど、韓国の「聯合ニュース」のグラフがわかりやすいので引用する。「累計感染者」からは3/9に日韓の行き来が閉ざされた直後の3/10あたりからカーブが緩やかになっている。また「新規感染者」に注目すると、3月は増減があるものの、傾向としては4月に入ってからは右肩下がりの状況であることがわかる。
そして、大都市部の流行拡大も日本とは異なっている。韓国の場合、感染者数が多いのは、大邱広域市および慶尚北道を中心とした一部地域で全体の9割近くを占めている。大都市を比較するにあたり、ソウルと東京を比較してみる。まずは前提として母集団となる人口を確認する。ソウル市の人口は2020年3月の時点でおよそ1000万人である。東京都の人口は2020年3月の時点でおよそ1400万人弱である。そして、4/19の時点での累積感染者数はソウル市が624人で東京都は3082人。もちろん、東京都の人口はソウルよりも約1.4倍ほど多いので数字のみで比較はできないけど、単純にソウルの感染者数に1.4をかけて計算しても東京の感染者数が多いことがわかる。
前回に引き続き、「だったら、どうしたらよいか」までは、私は感染症の専門家ではないので、旅行記主体のこのブログでは踏み込むつもりはない。伝えたかったことは、日本の感染者数が、韓国の感染者数を超えたことをきっかけとして、現在の韓国がどうなっているかを調べてみたら、韓国では新規感染者数が1日あたり8〜27人と落ち着いており、びっくりしたというだけのレベルの低い内容。韓国の感染拡大初期の3月上旬に「韓国は危険」と感じた認識を更新しなくてはならないなぁ。3月上旬にインプットされた過去の情報、先入観を更新せずに、今でも日本よりも韓国の方がひどい状況であると思い込んでいないだろうか。実は、私も日本も韓国も同じような状況だろうと思って調べてみたら、現在の日本の方が韓国よりも、よほど感染者数の増加率が高く、イタリアのようにオーバーシュートの状況ではなさそうだけど深刻な状況であることを知ってびっくりした。
PCR検査を徹底的に行うか、抑制した方がいいのかの是非については、のちに歴史が判断することである。今の状況は、国民の命や健康を守るが優先だろう。もしも、韓国で効果があった方法があるなら、「先行研究」としてそれは学ぶべきだし、積極的に真似をしてもいい。一定数は存在する韓国と言うだけでケチをつける日本人も、今は好き嫌いを言っている場合ではなく、韓国よりも日本の方が優れているというような「プライド」は無視して、世界中の人々が連帯して、人類の英知を結集し、様々な手段で危機を乗り越えるしかない。今は試練の時。なんとしてでも世界中の人々と連帯して、みんなで朝を迎えよう。
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