不全感の残るエンディング。
基本的に仕事のことはここには書かないので、たぶん今回が初めての日記。
私は社会福祉施設併設のデイサービスセンターで相談員(ソーシャルワーカー)をしている。先日、地域包括支援センターから相談があったケースは、地域の中で、公営住宅に住むまだ60歳代の男性の独居の方がいて、交流もなく家に閉じこもりがちの生活をしているのでデイサービスを利用できないかという相談。
ただし、問題は、その男性は遺伝的な難病で、難聴でコミュニケーションは筆談。片方の目は見えず、難病により皮膚に炎症があり、顔面に炎症による変形がある。そのような疾患が、地域の中での他者との交流を阻害する要因になっており、社会的孤立状態にある。私たちのセンターはそのように社会的孤立にある利用者を受け入れていくことをチームで決断する。
しかし、私たちスタッフにとってはどんな容姿であっても利用についてはなにも問題はないのだが、懸念される最大の心配は、他の30名超の利用者に本人を受け入れてもらえるかどうか。その容姿から「気持ち悪い」などという噂になりはしないか。グループの中で異質のものを排除する作用が起きないかどうか。集団の力というのは、利用者同士の相互作用により利用者の自立を支える反面、コントロールを失うと、排除の力が生まれ、学校で言うと「いじめ」のような状況につながりかねない。
結論をいうと、利用者にきちんと説明をした上で、私たちは利用者を信じて、その利用者を受け入れることにした。
初日の利用日、全員の輪の中で私は彼の紹介と病気について説明をした。デイサービスを利用する利用者は、腰や膝が悪かったり、脳梗塞の後遺症を持っていたり、すべてが健康な人は誰もいないこと。誰もが望んで病気になりたくてなっているわけではないこと。遺伝的な難病であり、伝染するものではなく、病気は本人が望んでなったものではないことを繰り返し話した。利用者の数名はその説明を聞いて拍手してくれた。
本人は難聴のために私の話は聞こえない。集団の中に入るのに躊躇しており、遠くで背中を向けて座っていた。本人にとっても、自分が受け入れられるか心配だったに違いない。
午後の活動は、いくつかの活動の中からレクリエーションに参加してもらった。最初は、集団の輪から一歩引いた位置で見学をしていたのだが、職員がボールを回すと、徐々に集団の中に入り始めた。他の利用者も、仲間の一人として彼を受け入れ、彼は集団に受け入れられていた。しばらくすると、すっかり、お互いにボールを渡し合うレクリエーションの輪に入っていた。そして、活動後のお茶の時間には、他の利用者と同じテーブルに座り、グループの一員として、顔を背けることも隠すこともなく、輪に加わっていた。
彼は初日から利用者の輪の一員となれた。
若干1名ほど、私に苦情を伝えに来た利用者はいたが、利用者は彼を受け入れた。社会的孤立状態にあった彼が過ごすべき居場所ができた。帰りの送迎車の中でも、活動について「子どもっぽい」と話していたが、居場所を見つけてうれしそうな様子だった。久しぶりに社会福祉援助活動をしていて、私もうれしかった。彼の様子もそうだし、そして彼を受け入れてくれた利用者もうれしかった。利用者を信じて正解だった。
2回目の利用の日、耳が遠いので玄関の鍵は開けておいてもらい、職員が中に入って彼を迎えるという通所介護計画通りに彼を迎えに行くと、彼は浴槽の中に沈んでいる状態だった。
事件性はなく、他県に住む兄弟の話では一人で深酒をして風呂で寝てしまうことがあるらしい。彼はどのような気分で酒を飲んだのだろうか。せっかく居場所ができたのに・・・。これから、利用者のグループの一員として、楽しい時間が始まるところだったのに・・・。寂しさで酒を飲んだのではなく、次にデイサービスに来ることを楽しみにして、おいしい酒が飲めたのかな?
けっきょく、私たちがお手伝いできたのは、たった1日の利用だけ。そして、社会的孤立状態であれば1ヶ月以上発見されなかったかもしれないけど、死後、数日しか経たないうちに本人をみつけることができただけ。私たちももっと彼のことをこれから知りたかったのに、なんだか、フランス映画を見終わったあとのような不全感の残る終わり方で、ここしばらく、ずっと頭の中でもやもやしている。
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